すき間風の音かと思った。 ひゅるひゅる・・・
学生時代、それぞれ一人暮らしの若造どもが、今日のねぐらをイトウの下宿に決めた。 百草園から徒歩20分という、いかにも安そうな下宿。みんな、酔っ払って就寝中。
すき間風かと思った音が、言葉みたいに感じられてきた。
イ・ト・ウ・く・ん・・・ イ・ト・ウ・く・ん・・・
すき間風はそんな風に聞こえた。
イトウくん・・・ イトウくん・・・
だんだんと人間の発する言葉みたいに感じられてきた。 声帯をなるべく震わさないように。「でも、何とか伝えたいんだ」! そんな感じに聞こえてきた。
・・・イトウく〜ん
ん!?これはすき間風ではなく、人間の言葉だな。と、自分が目覚めたとほぼ同時に イトウも目覚めた。
「ん?・・・ あ? あれ?・・・なんすか?」とイトウ。
そのとき、すき間風の正体は、S川さんのささやき声だったということが判明した。
「かみ」
声のするほうを見ると、 トイレのドアを少しだけ開けて、こちらを向いているS川さんが見えた。
「イトウくん・・・ごめん、紙が無い・・・」
--- イトウが替えのトイレットペーパーを渡した。 空がようやく白み始めたころの出来事。
さすが。 朝から食パンを「いっきん」食うやつは、腸の動もが活発だ。 | |