●始まり
「あれ、痛い。寝違えたかな?」
数年前のある朝、起床時に背中の痛みに気づいた。最初はちょっとひどめの寝違え状態かな?程度だった。
仕事は長いこと超多忙。疲れてんだなーやれやれ・・・ぐらいしか思わなかった。
ところが体が目覚めてくるにしたがい、どうもいつもの「寝違えた」程度とは違うような気がしてきた。
イスに座って落ち着いていてもジンジン痛む。んんんん!?なんだこりゃ?
朝の打ち合わせのあとで、「医者に行ってきます」と会社を出た。
ここで失敗!・・・普通の医者に行けばいいものを、「整体なんとか」に行ってしまった!
その時点ですでに普通にしていても息苦しいぐらいの苦痛な痛み。それを、
グリグリグリ!とひねられ、
「どうですかー、少しは楽になったでしょー」
と整体医。
「ん〜・・・あまり変わらない。痛い・・・」
このとき整体医のところに行ったのは今でも後悔している・・・
●ヘルニアの診断
痛くて痛くて仕方ないので、総合病院に行った。
「レントゲンをとりましょう。」
レントゲンを見てすぐに医者は言った。
「これはまず間違いなく、ヘルニアです。ここを見てください。骨と骨の間が狭くなっているでしょう?」
最初は漠然と背中あたりが痛かったのだが、そのころの痛みは右腕上腕部だった。
ちぎれるように痛い。
医者に言われて握力を計った。
20kgもいかなかった。そんなバカな。
「もう一度計らせてください」
何度計っても同じだった。
「首の骨と骨の間にクッションみたいなものがあるんですが、あなたの首はそれがはみ出してしまった状態です。
おそらく、右腕に行く神経を特に刺激しているようです。握力低下がその現象として出ています。」
そういえば、数ヶ月前ぐらいから、右腕あたりに違和感があった。
しこりというかなんと言うか・・・あれが前兆だったというわけか。
医者は「手術ということも考えられる」と言った。・・・ショックだった。
しかし痛い! 痛い痛い! 手術でもなんでもいいから何とかしてくれ!
●大学病院へ
そこは家の近所の病院だったのだが、そこに昭和大学付属病院の先生が週1回来ているとのこと。
「その先生は首の治療では有名です。一度その先生が来る曜日に来て見てください。
ああ、来週は来られない予定なので、再来週になりますね。」
っつっても、痛くて痛くて仕方ない。再来週と言われても待ってられない!
お願いして紹介状を書いてもらい、直接昭和大学付属病院に行くことにした。
紹介状は書いてもらったが、大学病院に行くのは数日後。その間なにしろ痛い。眠れない。
横になってしばらくすると、右腕がちぎれそうにジンジンしてくる。
ううう・・・と起きる。起きると少し「ちぎれ感」が薄れてくる。
「ふぅ」と息をつき、また横になるが、またすぐにジンジンと・・・この繰り返し。
首に巻くコルセットみたいなのを買った。
最初は締め上げるものだと思ってきつく巻いていたが、それは勘違いだとわかった。
これは首を固定するものではなく、重い頭を置いて、首を休ませるのが目的だそうだ。
・・・ちなみに、それをつけていたところで痛みが和らぐわけではない。
ようやく大学病院へ。
CTスキャン撮ってずいぶん待たされて診察室へ。
(CT撮る間、じっと横たわっているだけで冷や汗かくぐらい痛かった)
●「はみ出したものはひっこまねぇ」
先生は一見、強面っぽい人だった。
一瞬、印象が悪い方向に感じたが、話をするとすぐにその印象変わった。ズバズバものを言う感じが好きになった。
「やっぱりヘルニアだね。ここ見てごらん。飛び出してるよね。ここが神経を圧迫しているね。だから痛いんだ。」
CTの結果を指しながら説明してくれた。
「これ、原因は何なんですか?」
「んー、ま、普通は老化なんだけどねー、君の歳で老化というのもおかしいんだけど。ま、普通は老化だね。」
まぁ、そりゃわかんないよな。
「先生、いま飲んでいる薬は何なんですか。これを飲んでれば、だんだんとヘルニアが引っ込んでくるんですか?」
「いや!そうじゃない!一度飛び出したものは引っ込まねぇ!」
え!? そ、そうなんだ! か、勘違いしていた・・・
「いま飲んでいるのはビタミン剤だよ。君の首の神経は急に圧迫されて弱っている。それを元気にさせるための
ビタミン剤だよ。そして君が首に巻いているもの、それで首を休めてあげんるんだ。」
「先生、これ、治るんですか? どれぐらいで治るんでしょうか? 手術が必要なんでしょうか?」
たまらず訊いた。
「まあ、普通はこの治療で徐々に治ってくる。もしもいつまで経っても痛みがおさまらず、日常生活に
支障があるようなら、そこで手術などを検討すればよい。いまはこの治療を続けよう。
ただ、さっきも言ったとおり、一度はみ出したものは引っ込まないから、完全に治るということは無いんだ。
痛みがおさまったとしても、君はこれからあまり無茶をせず、こころ安らかにゆったりした生活をしていくんだ。」
最後の言葉のときは、ややにんまりして「ちょっと誇張かな?」みたいな表情で言っていたが。
「完全に治ることはない」と言われたのはショックだったが、何となくズバズバと説明してくれて、
自分の首の状態が把握できたので、少しすっきりした。
これも名医の条件のひとつだよなー。いまだにこの先生は信頼している。
○その他情報
その先生によると、首のヘルニアの治療で牽引するのはあまり良くないらしい。
なんでも、脊髄液の通る道を細くしてしまう可能性があるからとかなんとか。
まあ、数年前の情報なので、今はどうなっているかわからない。医療も日々進んでいるだろうから。
●それからの生活
仕事は休まなかった。電車には乗れない(立っていると冷や汗が出るぐらい痛い)ので、バス通勤。
そのときは会社の近くまで行くバスが出ていた。今は路線見直しでなくなってしまったが。
自宅−バス停が徒歩3分ぐらい。会社−バス停が徒歩5分ぐらいなのだが、それが辛くて仕方ない。
ようやくバス停に着いて、バス到着まで待っている間、おじいさんおばあさんに混じってベンチに座った。
もともと電車などで席が空いていても座らないような性格だったので、そんな自分がみじめだった。
仕事中、ちょっとコンビニへ、それもすぐそばのコンビニに行くのもたいへんだった。
まあ、すぐだからだいじょうぶだろう、と思って買い物に出たのだが、すぐに右腕にちぎれそうな痛み。
事務所に戻って席に座ったときには深いため息。ふぅぅぅぅ・・・
「本当に治るのか?オレの首・・・」
●回復
1ヶ月ぐらいすると、だんだんと歩いていても前ほどの苦しさは無くなってきた。
2ヶ月ぐらいしてからだろうか。
最初に握力を計った病院で、再挑戦。30数kgぐらいまで力が入った。
「おお、戻ってきましたね。」
大学病院の先生ではない先生(最初はあまり信用していなかった)が、カルテに、
"握力が戻りました!" と、ビックリマーク付きで記してくれたのが嬉しかった。
「じゃあ、首のそれ、取ってみましょう。最初は無理せず痛くなってきたらまたつけて、という感じで。
徐々に慣らしていきましょう。」
嬉しかった!!
ずっと首に巻いていたガードを外して歩くのは非常に怖かったが、「良くなっている」という希望が
快復をさらに早めたような気がする。結局、それからすぐにガードは不要になった。
●現在
今はほとんど首のヘルニアを意識することはない。
かなり疲労しているときに、若干、首・腕に違和感を覚えるときはあるのだが、一眠りすると何ごともなくなってる。
「無茶せずに、これからは心安らかに生活していくんだ。」
大学病院の先生に言われたときには、あああ、オレはもうじいさんみたいな生活しかできないんだ、と思ったが、
・・・けっこう無茶してる。
でも、「オレの首はヘルニアもち。一度出たものは引っ込まねぇ。」ってのは同じ。
自分の首の状態とはじょうずに付き合っていこうと思っている。
おしまい。
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